答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が先行するP波を伴って規則正しく打っています。P波は I、II、aVFで陽性ですから正常洞調律ですが、心拍数が50/分弱ですから洞性徐脈という診断になります。心拍数50/分前後の洞性徐脈が臨床的に問題となることはまずありません。

  2. II 誘導のP波は幅が2目盛り(0.08秒)強、高さも約2目盛り(0.2mV)強です。何れも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ間隔は約4目盛(0.16秒)ですから、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)で、aVR以外では大きなQ波(異常Q波)を認めません。胸部誘導でR波はV1~V2にかけて高くなっており、S波はV3→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は13+12=25mm(2.5mV)ですから左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはI誘導ですから。おおよそその電気軸は+ 90度。
  6. ST-T
    V4~V6で僅かにSTが低下しています。この心電図1枚で心筋虚血と断定することはできませんが、虚血の存在に注意が必要な波形です。
  7. QT
    T波の終了点が判り難いところもありますが、QT時間は16~17目盛(0.64~0.68秒)と長めのようです。Bazettの式(QT/√RR)で心拍補正をかけてもQTcは0.56程度になり、正常上限0.45を大きく上回っていますから、QT延長と診断します。
    QT延長を認めた際には、低カリウム血症や抗不整脈薬などの薬剤による影響、QT延長症候群(Romano-ward 症候群・ Jervell and Lange-Nielsen 症候群)の存在などを考える必要がありますが、いずれの場合も ”torsade de pointes型心室頻拍” による突然死のリスクがある事を念頭においておかなければなりません。

ということで今回の波形は 洞性徐脈 + ST低下 + QT延長 という診断になります。
たくさんの心電図を見慣れている人は、今回の波形を見てST-T部分が間延びしている事(QT延長)にすぐ気づかれたと思います。しかし読み慣れていない人にとっては、QT延長は見逃しやすい所見ですから注意が必要です。