答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が不規則に打っています。前回の心電図と同様、RR間隔が全く不規則(絶対不整)でP波が判然としていませんから、この段階で心房細動と診断できます。
    ただ、今回の心電図では14拍目(記録が胸部誘導に切り替わった6拍目)のQRSの幅が他のQRS波と違って広くなっています。この波形は幅が広いことから心室の異常興奮と考えられ、前後の波形に比べて出るタイミングが少し早いこととあわせて、心室性期外収縮と診断します。
    心拍数は平均すると93/分 ですから、今回は頻拍性の心房細動ではありません。

  2. P波はどの誘導を見ても判然としませんから、所見を拾う事はできません。
  3. PQ
    P波がありませんから計測不能です。
  4. QRS
    QRS波の幅は14拍目を除き約2目盛(0.08秒)。 I、aVL、V1、V2誘導でR波がなくQS型になっており、V3誘導のR波もほとんどありません。このように本来R波があるはずの誘導でQS型波形を認めた場合には「異常Q波」と判断し、貫壁性の心筋梗塞の存在を疑わねばなりません。
    この心電図では I、aVL、V1~V2(V3)に異常Q波を認めることから、前壁中隔~側壁の心筋梗塞と診断します。
    V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は6+15=21mm(2.1mV)で、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのは I とaVR誘導ですから、おおよそその電気軸は+105度という事になり、右軸偏位と診断します。
  6. ST-T
    明らかなST-変化はなさそうですが、T波は四肢誘導とV1誘導で平定化しており、V5、V6では一部で陰性になっています。これらのT波の変化は心房細動によるところが大ですが、陰性T波に関しては、側壁梗塞の周囲に非貫壁性の梗塞や虚血が広がっているとも考えられます。
  7. QT
    明らかなQT時間の延長はなさそうです。

ということで今回の波形は 心房細動 + 心室性期外収縮 + 心筋梗塞 + 右軸偏位 の心電図という診断になります。
心房細動と心室性期外収縮に目を奪われて、その他の所見を読み落としたりしませんでしたか? この症例では、前壁中隔~側壁の心筋梗塞による心不全のため心房細動や期外収縮が出てきているのではないかと疑わねばなりません。右軸偏位も梗塞による影響ですが、この心電図ではオマケのような所見です。