答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が、約140/分の速さで規則正しく打っています。P波はハッキリしません。ここで心拍数が100以上ある事から何らかの頻拍と考えられるわけですが、QRS波の幅が正常範囲内(<0.10秒)である事から心室の興奮は正常と判断できますから、この頻拍の原因は心室より上にある、すなわち上室性頻拍と診断します。
    一般に洞性頻脈の場合はP波がハッキリしている場合が多く、いわゆる上室性頻拍の多くはP波がハッキリしていません。ですからこの心電図のように、幅の狭いQRS波の規則正しい頻拍(narrow QRS tachycardia)でP波がハッキリしない波形をみた場合には、上室性頻拍と診断してほぼ間違いありません。

  2. P波はハッキリしませんが、よくみるとQRS波の後ろ2目盛~3目盛あたりにT波に重なって一定の場所に必ずノッチ状の波形がありますから、ひょっとするとこれがP波かもしれません。
  3. PQ
    P波がハッキリしませんからPQ間隔は読めません。
  4. QRS
    QRS波は、幅が約2目盛(0.08秒)でaVR以外では明らかなQ波を認めません。胸部誘導でR波はV1~V4にかけて徐々に高くなっており、逆にS波はV2→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は13+18=31mm(3.1mV)で、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはaVL誘導ですから、おおよそその電気軸は60°です。
  6. ST-T
    II、III、aVFとV5~6で軽度のST低下とT波の逆転を認めます。恐らく頻拍により心筋に相対的な虚血状態が起こっているものと考えられます。
  7. QT
    QT時間の延長はありません。

ということで、今回の心電図の診断は 上室性頻拍 ということになります。いかがでしょうか?

上室性頻拍は、突然始まる速い動悸の発作として発症するため、病棟や一般の外来よりも、救急外来や時間外外来で遭遇する事が多い心電図です。急患が来て、慌てて記録した心電図にこんな波形が出てくると動転してしまいがちですが、「幅の狭いQRS波の規則正しい頻拍(narrow QRS tachycardia)でP波がハッキリしていない」という所見さえ冷静に押える事ができれば診断できますから、恐れる事はありません。