答え

  1. リズム
    ほぼ正常の幅のQRS波が、先行するP波を伴って規則正しく打っています。P波は I、II、aVFで陽性ですから洞調律と考えられます。心拍数は60/分弱。教科書的には、安静時の心拍数の正常域は60/分以上100/分未満ですから、60/分に満たないということからこの心電図を洞性徐脈と診断しても間違いではありません。しかし、安静時に心拍数が50/分台という人は決して珍しくなく、それらすべてに洞性徐脈というレッテルを貼るといささか問題となってしまうため、実際には50/分以上(一部の検診などでは45/分以上)を正常する事が多いようです。

  2. II 誘導でP波の幅は2目盛(0.08秒)あまり、高さは約1目盛(0.1mV)です。何れも正常範囲内で、左房負荷や右房負荷はなさそうです。
  3. PQ
    PQ間隔は4目盛(0.16秒)くらいで房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)で、aVR以外では明らかなQ波を認めません。胸部誘導でR波はV1~V4にかけて徐々に高くなっており、逆にS波はV2→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は5+15=20mm(2.0mV)で左室肥大もありません。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのは III 誘導ですから、おおよそその電気軸は30度。
  6. ST-T
    III 誘導でT波が平坦になっていますが、明らかなST-T異常はなさそうです。
  7. QT
    QT時間の延長はなさそうです。

ということで今回の心電図は、明らかな異常を認めない 正常洞調律 の心電図という診断になります。いかがでしょうか?

初心者が心電図を難しいと思う理由の一つに、同じ正常といわれる心電図であっても人によって波形がすべて異なっているという事があります。正常波形が特定の1種類だけであれば、正常異常の判断は簡単なのですが、正常には幅があって、しかも人相や指紋のようにみんな少しずつ違う形をしています。ですから、その心電図が正常であると判断するためには「明らかな異常がない」という事を確認する必要があり、そのためには心電図を読んでいく各ステップで、具体的に何をチェックするのかという事を知っておく必要があるのです。それさえ押さえておけば、余計な所見に惑わされる事なく“異常の有無”をチェックできますから、心電図の読影は飛躍的に楽になるはずです。