答え

  1. リズム
    幅の狭い QRS 波がちょっと不規則に打っています。QRS 波は、四肢誘導でも胸部誘導でもそれぞれ 2 種類の形がみられます。II 誘導で見ると、背の低い方の QRS 波は先行する P 波を伴っているようですが、背の高い方の QRS 波の直前には P 波がなさそうです。よく見ると P 波は 60/分前後(約 25 目盛間隔)でほぼ規則正しく出ており、2 つ目の P 波の後に QRS 波がないことから、心房の興奮が心室に伝わらない 2 度の房室ブロックが起こっているものと考えられます。ブロックされた P 波の次に出てくる背の高い QRS 波はやや幅広で、かなり遅いタイミングで出てきていますから、房室接合部より下の自動能による補充収縮と診断します。この QRS 波の直後に出ている P 波は、心室興奮が興奮した直後(不応期)のため、心室には伝わりません。さらにその次の 2 拍を見ると、1 拍ごとに PQ 間隔が少し延びていて、続く胸部誘導に切り替わった直後の P 波が心室に伝わっていない(ブロックされている)のが判ります。このことから2 度 Type1 (Wenkebach型)房室ブロックと診断します。その次に出ている胸部誘導の最初の QRS 波は、やや幅広で、V1 で RR´ (右脚ブロック)型をしていて P 波の直後に出ていますから、房室接合部より下の自動能の興奮による補充収縮と考えられます。胸部誘導の 3 拍目の QRS 波も同じ形で補充収縮と考えられ、これらの補充収縮はいずれもひとつ前の QRS 波から 41 目盛前後のタイミングで出ていますから、約 37/分の自動能を持っていることが判ります( 60 ÷ (41 × 0.04)= 36.6 )。
    P 波は I、II、aVF で陽性ですから基本は洞結節からの調律で、QRS の心拍数は平均 43/分( 6拍 / 8.3 秒× 60 = 43.4 )。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまり、高さが約 2 目盛( 0.2mV )で、いずれも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 時間は心拍によって変化しており、II 誘導の背の低い QRS 波で見ると 5 目盛( 0.20 秒)~ 8 目盛( 0.32 秒)と延長しています。
  4. QRS
    QRS 波は、四肢誘導でも胸部誘導でもそれぞれ 2 種類の形がみられますが、いずれも幅は約 2 目盛( 0.08 秒)あまり。補充収縮の QRS 波の方がわずかに幅広のようです。先行する P 波を伴っている QRS 波で見ると、aVR 誘導以外では明らかな Q 波を認めません。また、胸部誘導では、R 波は V1 ~ V3 の順で高くなっていて、また S 波は V4 ~ V6 にかけて徐々に浅くなっています。この QRS 波の V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 12 + 15 = 27 ( 2.7mV )です。補充収縮の QRS 波は V1 で RR´ (右脚ブロック)型をしており、房室接合部直下の左脚側から出てきた興奮であると類推できます。
  5. Axis
    肢誘導で先行する P 波を伴った QRS 波をみると、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない波形は I と aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は+ 75 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T 異常はなさそうです。
  7. QT
    QT 時間の延長もなさそうです。

ということで、今回の心電図は 度 Type1 ( Wenkebach 型)房室ブロック+補充収縮という診断になります。房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈性不整脈では、通常の心室興奮が出てこなかった際に心室が下位の自動能によって興奮することがあり、この現象を補充収縮といいます。ポンプ(心臓)が止まってしまわないよう fail safe system が作動して心室が収縮する現象です。補充収縮が房室接合部の上の方から出れば、その QRS は幅が狭く正常と同じ形をし、房室接合部より下の方(心室)から出れば、その QRS は幅が広く脚ブロック型になってきます。