答え

  1. リズム
    幅の広いQRS波がほぼ規則正しく速く打っています。QRS波に先行するP波はなさそうです。心拍数は約120/分くらいでしょうか。
    QRS波が幅広であることから心室が(正常の刺激伝導系を介さない)異常興奮をしていると考えられ、また先行するP波を伴わずに規則正しく打っていることから心室固有の調律であると考えられます。しかも心拍数が100/分を超えており頻拍の状態ですから、以上を総合して心室頻拍と診断します。
  2. P
    ハッキリしたP波はなさそうです。
  3. PQ
    P波がないので読めません。
  4. QRS
    QRS波は幅が約3目盛(0.12秒)あまり。正常の上限(0.10秒)を大きく超えていますから、心室の異常興奮と考えられます。先行するP波を伴わずに規則正しく速く打っていることから心室頻拍と診断します。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはIIとaVR誘導です。I 誘導が上向きでaVF誘導が下向きですから、おおよその電気軸は-45度。極端な左軸偏位ですが、心室の異常興奮ですから左脚前肢ブロックの所見はとりません。

    今回の心電図はQRS幅が正常の上限を超えており、心室が異常興奮(刺激伝導系を介さない興奮)をしていると考えられますから、ST-TやQTに関しては所見を読んでも意味がありません。 

    ということで今回の心電図は、「幅の広いQRS波が、先行するP波を伴わずに規則正しく速く打っている」という所見から、とりあえずは心室頻拍と診断しますが、実は少し気になる所見があります。

    幅広のQRS波の形をよく見ると、QRS波全体が広くなっているのではなく、始めは急峻な波形で後半が広がっているのが判ります。しかもV1のQRS波を見るとrR´型になっていますから、通常の房室伝導を降りてきた興奮が完全右脚ブロックの形で伝わっているとも考えられます。そこで、心房の興奮(P波)に相当する波形がどこかに隠れていないか探してみると、QRS波の始まりから2目盛目あたりにノッチ状の波形が必ずあるのが見えてきます(II、III、aVR、aVFでよく判ります)。これがP波だと仮定すると、今回の波形は(心室と心房とがほぼ同時に規則正しく速く興奮していることから)房室結節回帰性頻拍(上室頻拍)に完全右脚ブロックと左脚前枝ブロック(2枝ブロック)が合併したものということになります。

    房室伝導を抑える即効性の薬剤(ATP)を用いることで頻拍が停止すれば上室頻拍の診断が確定しますが、どちらかハッキリしない段階では、より重症度の高い心室頻拍として対処する方が安全です。