答え

  1. リズム
    幅が広めの QRS 波がほぼ規則正しくゆっくり打っています。P 波は I、II、aVF で陽性で洞結節からの興奮と考えられますが、QRS 波とは 1 : 1 対応していないようです。よくみると P 波は 90/ 分程度で規則正しく打っていて、QRS 波は P 波とは無関係に約 33/ 分で規則正しく打っているようです。
    心房( P 波)と心室( QRS 波)が互いに無関係に規則正しく打っていて、速さが P>QRS ということからこの段階で完全房室ブロックと診断します。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛半( 0.10 秒)強とやや広め。V1 の P 波を見ると±の 2 相性の形で後半に陰性の部分がしっかりありますから左房負荷と診断します。II 誘導の P 波の高さは約 2 目盛半( 0.25mV )ですから、明らかな右房負荷はなさそうです。
  3. PQ
    P 波と QRS 波が 1 : 1 で対応しておらず PQ 間隔はまちまちです。これは完全房室ブロックのため心房( P 波)と心室( QRS 波)が別々の自動能で動いているからです。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 3 目盛半( 0.14 秒)で、正常上限の 0.10 秒よりかなり長くなっています。V1 誘導をみると rR´ 型を呈しており、この R´ のために QRS 幅が広くなっているようです。肢誘導の QRS 波も、その後半で幅が広くなっているのが判ります(特に I、II、aVL でよく判ります)。QRS 波の後半の興奮が遅くなっている事から 脚ブロックと考え、さらに V1 で rR´ 型を呈していて幅が 0.12 秒以上ある事から 完全右脚ブロックと診断します。
    今回の心電図の場合、完全房室ブロックのため心房の興奮が心室には伝わっていませんから、心室は房室接合部以下の自動能(補充調律)によって動いていると考えられます。もしこの自動能が房室接合部の上の方(刺激伝導系が右脚と左脚に分かれるよりも上)から出たものであれば、QRS 波は幅の狭い正常の波形になるはずですが、房室接合部の下の方(右脚や左脚、左脚前枝、左脚後枝など)から出たものであれば、この心電図のように幅の広い QRS 波になるのです。これは、より下位の自動能が心室を動かしていることを意味し、幅の狭い QRS 波の場合に比べて心拍数が遅くなり心室の動きも悪くなりますから、同じ完全房室ブロックでもより悪い状態だと考えなければなりません。
    V5 の R 波の高さは 15 目盛( 1.5mV )前後ですから左室肥大はなさそうです。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは III と aVF 誘導ですからおおよその電気軸は +15 度です。

今回の心電図は、QRS 幅が正常上限を超えていることから心室の興奮が異常(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)と判断できますので、原則として ST-T や QT に関しては所見を拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図は 完全房室ブロック + 左房負荷 + 完全右脚ブロック という診断になります。

慣れない人がいきなりこの心電図を見せられると、幅の広い QRS が異常にゆっくり打っているので「これはマズい状況だ!」と動転してしまうかもしれません。しかし「心房と心室が互いに関係なくそれぞれ独自の自動能で規則正しく動いていて、心房が心室よりも速く打っている」ということさえ気付けば、完全房室ブロックの診断は難しくありません。