嚥下のメカニズム

解説:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 戸原玄(とはら はるか)

1.摂食・嚥下の5期
 摂食・嚥下とは食べ物を食べ物として認知し、口腔、咽頭、食道を経て胃に到達するまでの全ての過程を指します。この一連の動作は、大きく5つの期に分けて考えると非常にわかりやすくなります(表1)。

摂食・嚥下障害の援助

 まず先行期(認知期)において、視覚、嗅覚、触覚などの感覚と過去における食体験から、今目の前にある食べ物の性質(硬さ、味、温度など)を判断して、どれくらいの量をどれくらいのペースで食べるかを決定します。つまり食べるペースが異常に早い、食べ物に興味をまったく示さないなどの症状がこの時期の障害を示唆します。
 それに続く準備期(咀嚼期)で、口の中に取り込まれた食べ物は咀嚼されて唾液と混ぜ合わされ、一塊の飲み込めるような状態(食塊といいます)になります。咀嚼はものを巻で細かくするだけではありません。散剤が水なしでは飲み込めないように、細かくなったものを唾液と混ぜてどろどろの飲み込める状態を作ることが大切なのです。
 その食塊は、口腔期において口腔から咽頭へ、咽頭期において咽頭から食道へ、食道期において食道から胃へと送り込まれ、摂食・嚥下運動が完了します(図1)。

摂食・嚥下障害の援助

2.嚥下のメカニズム
 以下は前章の解剖をちょっと思い出しながらお読みになるとわかりやすいと思います。
 図1は健常若年者の、実際の嚥下の様子を模式化したものです。これは液体を飲み込むときの動きで、緑色に塗られている部分が液体、黄色が舌、赤が軟口蓋、顎の下の赤い点が舌骨、橙色が咽頭および食道の入口を表します。図の1では、液体を舌で一塊にしている様子が確認できますが、これがいわゆる“食塊”を作っているところです。
 続く23で口腔から咽頭へと食塊が送り込まれていますが、同時に軟口蓋が持ち上がり口腔と鼻腔の間を閉鎖して、更に舌骨が持ち上がってきているのが確認できます。このときはまだ食道の入口は閉じています。
 45では咽頭から食道へと液体が送り込まれているのが確認できます。舌骨が前の方(右の方)に動いているのが確認できると思いますが、この動きによって喉頭が持ち上げられ、食道の入口が大きく開いて、液体が食道内に送り込まれます。食道の入り口は自分から開くのではなく、舌骨や喉頭が持ち上がることと食べ物が押し込まれることによって開くのです。 6では液体は完全に食道内に送り込まれています。その後は蠕動運動によって胃へと到達します。

  このように摂食・嚥下運動を行うためには、数多くの器官が携わっていることがわかります。
 では、ものを噛んで飲み込むときの動きはどのようになっているのでしょうか。前述のように、液体を飲むときは、通常口の中で食塊を作って一気に飲み込んでいます(図2)。

摂食・嚥下障害の援助

 よって過去には、嚥下反射が起こる前に食塊が咽頭に入り込むのは異常であり、嚥下反射の遅延であると考えられてきました(図3)。

摂食・嚥下障害の援助

 しかし最近の研究から、ものを噛んで飲み込むときには、咀嚼がすんだ部分の食べ物は順次咽頭に送り込まれて、咽頭で食塊形成が行われることがわかっています(図4)。

摂食・嚥下障害の援助

 食事などするときに、ご自身の“のど”に注意しながら食べていただけますと、口に入れた食べ物全てを噛み砕くまで口の中に保持しているわけではなく、噛んだ部分はのどへ送り込み、噛んでない部分を噛むという作業が並行して行われていることがわかると思います。
このように、摂食・嚥下にはいくつかのステージがあり、また食べ物の種類によって飲み込みのパターンが異なります。正常な動きがどのようなものであるかを覚えることが、摂食・嚥下障害を評価するための大きな手がかりとなります。

  次回は、いよいよ「摂食・嚥下障害の代表的な病態は?」というテーマで考えていきます。

この連載の内容の無断転載を禁じます。