嚥下にかかわるちょっとした解剖のおさらい

解説:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 戸原玄(とはら はるか)

1.摂食・嚥下にかかわる解剖
 今回は、解剖のおさらいをしてみましょう。
 まず、図1をみてください。これはいわゆるVF(嚥下造影)の側面像です。

摂食・嚥下障害の援助

1が舌で、ご存知の方には当たり前のことなのですが、意外とのどの奥にまで舌が続いていることがわかります。舌は口の中だけでなく、のどの中で食べ物を押し込むのに非常に大きな役割を占めているのです。
2は軟口蓋、“のどちんこ”のついている部分です。この部分は、飲み込むときに反射的に持ち上がって、食べ物が鼻に逆流しないように鼻腔と咽頭腔を遮断する役割をします。もちろん、構音時、言葉を作るときにもこの部分の動きは重要で、鼻から“フガフガ”と抜けてしまうような言葉しか出せない場合は、この部分の動きが悪いことが予想されます。
3から下部の食道の入り口まで続くラインは、咽頭の後壁をさします。飲み込むときにはこの部分についている筋肉も収縮して、食べ物を送り込む働きをします。
4は舌骨です。この骨は6に示す甲状軟骨、つまりのど仏のすぐ上にあるU字型の骨で、上方は下顎の骨に吊り下がっており、下方は甲状軟骨を吊り上げているような位置にあります。特に舌骨と下顎の骨をつなぐ筋肉(舌骨上筋群といいます)は飲み込みに最重要な働きをする筋肉で、いわゆる“ゴックン”という反射的な飲み込みのときに強く収縮して、舌骨が前上方に移動し、さらに甲状軟骨も持ち上がります。食道の入り口は普段は閉じているのですが、この舌骨と甲状軟骨が前上方に移動することによって開きます。ですから、逆にいうと舌骨や甲状軟骨の持ち上がりが弱い人は、食道の開きが悪いことが多く、咽頭期の摂食・嚥下障害の主な原因となります。
5は喉頭蓋で、飲み込むときには倒れて気管のふたをします。
7は声門のある辺りを示し、そこから先が気管です。
8の食道入口部には上食道括約筋があって普段は閉じているのですが、前述したように飲み込むときには舌骨や甲状軟骨の動きによって開きます。
次いで、内視鏡の所見を見てください(図2)。

摂食・嚥下障害の援助


左側の写真は軟口蓋(図1-6)の上から咽頭を覗き込んだときの様子です。中央に喉頭が見えます。喉頭蓋と舌の間のくぼみは、喉頭蓋谷といいます。さらに内視鏡を進めると声門部がよく見えます(図2右)。中央に見える白いひだが声帯で、嚥下時や発声時にはこの声帯が閉じます。被裂部には被裂軟骨という軟骨が入っており、声門の閉鎖はこの軟骨の動きが主に関与します。さらに、その左右には梨状窩と呼ばれるくぼみが見えます。さらにその奥に食道の入り口があるのですが、安静時には閉じているので確認することはできません。

2.なぜ誤嚥するのか?
 では、なぜ誤嚥するのでしょうか。他の動物と異なり、人間は言葉を使います。言葉を話すにはさまざまな音を作る必要があるために、他の動物に比べて咽頭が長くなっているのです。さらに、食べ物も空気もこの咽頭を通って体内に取り込まれます。よって、この食べ物と空気が交差する部分が長いことが、誤嚥の原因となっているのです(図3)。

摂食・嚥下障害の援助

老化に伴い、人間は重力に逆らえなくなっていきます。そうすると、図4に示すように喉頭の位置が低下して咽頭腔が広くなり、ただでさえ他の動物より広い交差点が、更に広くなります。ぱっと見からも、いかにも食べ物が気管に入りやすそうな様子がわかると思います。こうして危険性が高まっているところに何らかの疾患の影響が加わると、容易に誤嚥を引き起こしてしまうのです。

摂食・嚥下障害の援助

 次回は、「嚥下のメカニズム」というテーマで嚥下の仕組みについて考えていきます。

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