『摂食・嚥下障害の援助』-連載をはじめるにあたり-

解説:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 戸原玄(とはら はるか)

はじめに
 摂食・嚥下障害への対応を考えたとき、リハビリテーションという概念は不可欠となります。まずは、その言葉の語源からみてみましょう。
 リハビリテーションという言葉は、中世では「身分や地位の回復」、近代では「名誉回復」、「復権」という意味合いで使われてきた言葉で、もともとは医学的用語ではありませんでした。1940年代ごろからようやく医学的用語としての意味合いを持つようになるのですが、これは医学の発展に伴い、さまざまな疾患へ対応できるようになったものの、その後の後遺症に苦しむ患者さんが増えてきたことが理由として考えられます。なんとか生き延びた後の生活を助けなければならないという動機から、生活の医学であるリハビリテーションが生まれたのです。リハビリテーションを一言でまとめると、「障害が残る患者に対し、ADLやIADLが快適に遂行できるよう支援し、介護量を軽減させてQOLを高めること」ということになります。非常に広い意味合いを持つ言葉であるということがおわかりいただけるかと思います。リハビリというと“訓練”というイメージがある方も多いと思いますが、元通りにもどすことだけが目的というわけではありません。どうしても元通りに戻らない場合には、手をかえ品をかえ、いろいろな方法を用いて生活を助けるという視点から対応を考えてゆくのがリハビリテーションなのです。

1.日本の高齢化
 日本は世界一の長寿国家といわれていますが、ここで他の国の高齢化率と比較してみたいと思います。図1に65歳以上人口の年次変化を示します。世界平均、先進国および発展途上国の平均をみると、いずれも65歳以上人口は増加しています。他のいわゆる先進国と日本を比較してみますと、日本は世界一の長寿国家という割には、イタリアとさほど差のない推移を示しています。

そこで、今度は80歳以上人口の推移をみてみましょう(図2)。65歳以上人口と異なり、他国を大きく引き離す伸び率を呈しているのがわかると思います。超高齢者の増加はそのまま、虚弱高齢者、要介護高齢者の増加を意味します。日本人の死因を見てみると脳血管障害が第3位、肺炎が第4位となっています(図3)。脳血管障害は摂食・嚥下障害の最大の原因疾患であり、肺炎で亡くなる人の9割以上は65歳以上の高齢者であると考えられています。このような背景から、摂食・嚥下障害への対応は高齢化の進んだ日本の医療界が対応すべき重要な問題であると考えられます。

摂食・嚥下障害の援助

2.摂食・嚥下障害により生じる問題
 摂食・嚥下障害がどのようなものかはこの連載で詳述していきますが、これにより生じる問題は誤嚥性肺炎のみではありません(表1)。その他、もちろん食べることの障害であるために脱水・低栄養、さらに食べる楽しみの喪失といったQOLに大きく影響する問題が生じます。ADLの低下した高齢者にとって、最後まで残る機能は“食事”であると考えられています。
 最後まで人間としての尊厳を保つという側面からも、摂食・嚥下障害への対応は大切であると考えられます。

次回は、「どんな援助を、何から始めればいいのでしょうか?」というテーマで具体的な援助の方法について考えていきます。

この連載の内容の無断転載を禁じます。