心不全の循環生理

解説:西新井ハートセンター病院 白坂友美(感染管理認定看護師)

  前回は心不全の臨床症状についてお話をしました。心不全は発症すると悪循環を起こし、症状がさらに悪化する事があります。その悪循環を断ち切る事が治療にとって重要です。今回は、「心不全の悪循環と治療」についてお話します。

1.心不全の悪循環(図1)
 心不全を発症し心拍出量が低下すると、交感神経が活性化すると共に、腎血流量低下によりレニンの分泌からアンギオテンシンⅡが生成され、動静脈血管を収縮させます。
また、このアンギオテンシンⅡは動静脈血管を収縮すると共に、アルドステロンを分泌させナトリウム・水分の再吸収を促し、循環血液量の増加・静脈還流量の増加をもたらします。
 この動脈血管収縮、循環血液量の増加・静脈還流量の増加は、一回の心拍出量を増やそうとするものですが(代償機構)、収縮機能の低下した心臓にとっては、動脈血管収縮は後負荷増大、循環血液量の増加・静脈還流量の増加は前負荷増大となり、これらに打ち勝てず心不全を増悪させる因子となります。

心不全の循環生理

2.心不全の治療
 心拍出量を決定する因子には、「前負荷」「後負荷」「心収縮力」があります。これらの因子をコントロールする事が心不全の治療となりますが、特に上記の背景にある事を踏まえ、(1)動静脈血管収縮、(2)循環血液量増加、の悪循環を断ち切る事が重要です。

1)前負荷・後負荷のコントロール(表1)
 前負荷を軽減させるためには、循環血液量を減少させる利尿剤、静脈還流量を減少させる亜硝酸剤、ACE阻害薬、ARBなどを使用します。
 後負荷を軽減させるためには、動脈血管を拡張させるカルシウム(Ca)拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなどを使用します。
 そして、最近では「心房ナトリウム利尿ペプチド」が良く使用されています。この薬剤はレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系に拮抗し血管を拡張させると共に、糸球体の輸入細動脈を拡張させ利尿効果をもたらします。一つで前負荷・後負荷共に軽減する薬剤として用いられています。

後負荷

2)心収縮
 強心薬のお話の前に、急性心不全と慢性心不全の違いを理解しておきましょう。
 急性心不全は急性発症の疾患が原因で心不全が発症した状態であり、慢性心不全は慢性的な心機能障害があり、何らかの原因で代償機構が破綻し心不全症状が悪化したものを言います。
 急性心不全や慢性心不全の急性増悪による急性期治療では、カテコラミンを一時的に使用しますが、慢性期治療でのカテコラミンの使用は、疲労した心筋に対して仕事量の負荷を加え続ける結果、予後を悪化させると言われています。慢性期治療では、収縮力の増大にはジギタリス製剤(唯一例外の強心剤で生命予後を悪化させない)、上記の「1.心不全の悪循環」のところの交感神経活性化に対し、仕事量軽減のために逆にβブロッカーを使用したりなどします。
「急性心不全」「慢性心不全」「急性期治療」「慢性期治療」など言葉が混乱しやすいので、注意しましょう。
強心薬には、(1)カテコールアミン(表2)、(2)PDEⅢ阻害薬、(3)ジギタリス製剤があります。それぞれ特徴がありますので、それを理解しておく事も必要です(表3)。
 急性心不全も慢性心不全も悪循環となる「動静脈血管」「静脈還流量」のコントロールは同じですが、心収縮に関しては異なる事をしっかりと覚えておきましょう。

心収縮力
心不全の循環生理

3.症例で考えよう
症例1
救急車で来院の患者。
起座呼吸で、酸素マスク8L流量でSpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)85%
呼吸苦の訴えあり、冷感・冷汗著明。
収縮期血圧200mmHg/拡張期血圧108mmHg  HR 洞調律 130台
胸部レントゲン:肺水腫

【治療】
亜硝酸薬:利尿剤使用
約10分後、利尿剤に反応あり。
血圧148/90mmHg  HR100台  SpO2 93%  冷汗消失

症例2
大動脈弁狭窄症術後患者。
手術後2日目の朝、Hb 8.7g/dl。
イノバン低量およびハンプ使用。朝食後、尿量100ml/h以上あり、イノバン・ハンプ中止し、内服の利尿剤にて様子観察。点滴中止30分後、呼吸苦の訴えあり、起座呼吸。
血圧・HR上昇、SpO2低下、末梢冷感および上半身冷汗あり。

【治療】
イノバン低量およびハンプ再開。
利尿剤内服後。
1時間後、冷汗・冷感・呼吸苦軽減。

 治療内容は医師のアセスメントにより異なってくるかと思いますが、看護師も治療の内容をきちんと理解しておくトレーニングは必要かと思います。皆さん頑張りましょう。

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